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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1049号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔主文〕1 主文申立人が、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録(二)記載の建物に建築基準法に違反しない増改築を施し、これを木造瓦葺二階建店舗居宅とすることを許可する。

2 申立人は、相手方らに対し、金五四万円の支払をせよ。

3 本裁判確定の月の翌月から本件借地契約の賃料を一ケ月金五、一〇〇円に改める。

(申立の要旨)

1 申立人は、恩田久太郎から、昭和二一年二月別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を非堅固建物所有の目的で期間を定めずに賃借し、同地上に同目録(二)記載の建物を所有している。

2 恩田久太郎は昭和二四年一一月一五日死亡し、相手方において共同相続し、賃貸人の地位を承継した。

3 賃料は、昭和三九年一月一日以降一ケ月金四六五〇円(坪一五五円)である。

4 申立人は、本件建物に別紙の増改築を施し、これを別紙目録(三)記載の建物にする計画であるが、増改築につき賃貸人の承諾を要する特約があるので、賃貸人に承諾を求めたが拒絶されたので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(決定理由)

1 本件の資料によれば、申立の要旨として掲げた1ないし4の事実を認めることができる。

相手方らは、相手方らの代理人恩田和可子は、申立人に対し、昭和三九年四月賃料を一ケ月坪一八〇円ないし二〇〇円に増額するよう請求したが、申立人は、昭和三九年四月分から一三〇円に増額することに応じ、更に、同年八月分から一五五円に増額することに応じたのみで、請求額との差額を支払わず、また、昭和四一年四月分から賃料を一ケ月坪二五〇円に増額するよう請求したが、坪一五五円の割合による賃料を支払うのみで、口頭による再三の催告にも拘らず請求額との差額を支払わないので、相手方らは、右賃料不払を理由に昭和四三年九月三〇日付書面で賃貸借契約を解除したと主張するが、賃料増額の事由がある場合に、賃貸人は増額請求権を行使することができ、これにより賃料は相当額に変更されるのであるが、賃借人としては賃借人の請求する額が果して相当であるか否か判らないこともあるので、賃貸人としては、増額請求に対して賃借人が応じない場合には、賃料確定の訴を提起し、裁判で確定された賃料を催告し、これに応じない場合解除権を行使する等信義に基づく行為をすべきであり、従つて、本件解除は信義則に違反し無効のものというべきである。

本件資料によれば、本件土地は商業地域であるので、申立人の計画する増改築は建ぺい率違反になるが、建ぺい率を適法にすれば、土地の利用上相当であると認められるので、本件増改築の申立は、建築基準法に違反しない増改築を為す範囲において許可すべきである。

2 次に、附随の裁判について考える。

借地法第八条ノ二第三項は、増改築許可の裁判を為す場合において、当事者間の利益の衡平を図る為必要あるときは、財産上の給付その他の附随処分を為すことができる旨規定している。ここにいう当事者間の利益の衡平を図るとは、いかなる意味であろうか。増改築により建物の耐用年数が延長され、その建物が借地上の主要な建物であり、かつ、建物の朽廃が借地権の消滅事由である場合には、借地人は、増改築により、建物の朽廃による借地権の消滅を免れる反面、賃貸人は、借地権の存在により土地所有権が制約を受ける期間の伸長を余儀なくされ、これに伴い、建物の朽廃による借地権の消滅により得べかりし利益を喪う等の不利益を招き、当事者の利害が対立するばかりでなく、借地人としては、増改築の結果、住の快適性、建物利用による収益の面その他において、従前以上の利益を亨受することも可能となるが、当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築が当事者に及ぼす右の如き利益、不利益を調整することであろうか。借地法第八条ノ二、第九条ノ二が新設され、しかも、借地権の消滅について定めた防火地域内借地権処理法第三条に代わる規定が設けられなかつたことは、独立の財産権としての借地権の保護を強化したばかりでなく、更新拒絶により借地権が消滅する場合を除き、借地人の意思に反する借地権消滅の途を閉したものということができる。附随の処分が増改築に伴う賃貸人の不利益を補償する趣旨のものであるとすれば、(一)補償能力のない借地人は、適法な増改築を断念せざるをえないこととなり、法が借地人に増改築を保障したのに拘らず、借地人の補償能力の有無によつて右保障が左右されることとなり、衡平を欠くのみならず、防火地域内借地権処理法第三条の如き規定のない現行法の下では、補償能力のない借地人は、借地権を他に譲渡するか、建物の朽廃を待つて無償で借地権を喪うかいずれかの途を選ばざるを得ず、前者の場合は、借地権の継続を意図する法の趣旨に反し、後者の場合は、借地権を独立の財産権として保護せんとする法の趣旨に悖ることになり、(二)借地人が補償能力を有していても、賃貸人の不利益を補償することは、場合によつては、借地の所有権を取得するに要する費用以上の出捐をしなければならないという不合理な結果を招くことにもなる。例えば、一〇〇万円の土地があり、借地権価格七〇万円、底地価格三〇万円とする。賃貸人は、借地権が建物の朽廃により消滅すれば、この土地を第三者に賃貸し、借地権設定の対価として七〇万円を入手することができる。しかるに、増改築の結果借地権消滅時期が三〇年延びるとすれば、賃貸人は、入手すべかりし七〇万円に対する三〇年間の利息を喪うこととなる。右利息は、利率を年五分とし、単利計算しても一〇五万円(これを一時に支払う場合、ホフマン法により中間利息を控除し六三万円余)となる。借地人が借地の所有権を売買によつて取得する場合、代金は底地価格相当額であるとされているので、借地人が賃貸人の喪失利益を補償すべきものとすれば、借地人としては、底地価格以上の出捐をしても借地の所有権を取得することができず、借地権を確保するにとどまるに過ぎないということになり、これは明らかに不合理である。(右の例で、借地上建物の朽廃時期が迫つているとしても、借地権価格及び底地価格は変動すべきではない。不動産鑑定の専門家は、法定更新の規定があるため、借地期間の進行に拘らず借地権割合は下降カーブをとらないと言うが、それと同じく、借地法第八条ノ二の新設により、建物の老朽化の進行に拘らず借地権割合は下降カーブをとらないというべきである。)

以上の見地から、当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築に伴う当事者の利益、不利益を調整する趣旨であるとは解し難い。とすれば、それは如何なる趣旨であるか。借地人は、増改築許可の裁判により増改築を為しうる権利を取得するものであり、しかも、それは、賃貸人の意思に反しても与えられるものであるので、増改築が当事者に及ぼす利益、不利益を切り離した増改築を為しうる権利そのものの価値を経済的に評価し(借地権は、場所により、価格の発生しているものと発生していないものとがあり、また、価格にも差異がある。)、経済的価値がある場合、衡平の見地から、その価格を給付せしめ(財産上の給付の問題)、また、右権利付与との関連において、借地条件の変更その他の処分をすることが相当であるか否かを考慮することであると解すべきである。

増改築をなしうる権利の価値の経済的評価は、右権利を付与された借地権価格の変動を把握することである。実際の取引事例は兎も角、増改築禁止の特約の有無により借地権価格が異るべきは、当然のことと思われる。借地非訟事件を扱つていると、堅固建物所有目的の借地権と非堅固建物所有目的の借地権との価格を比較するとき、前者の価格が大であり、その借地権割合の差は約一〇%であるというのが鑑定委員会の意見の大勢である。この場合、非堅固建物所有目的の借地権については、増改築禁止の特約の有無について区別していないようであるが、右特約のない非堅固建物所有目的の借地権は、土地所有権が制約を受ける期間の点においては差がないというべきであるので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権と右特約付の非堅固建物所有目的の借地権との比較においていわるべきものであり、右特約の有無による非堅固建物所有目的の借地権の価格の差も、借地権割合で見た場合約一〇%であるといえる。本件増改築により建物の耐用年数が延長されることは明らかであり、本件建物が本件借地上の主要建物であるので、建物の朽廃による借地権消滅時期が遠のくことにおいて借地権価格を増大せしめることになる。本件増改築許可の裁判は、本件増改築についてのみ増改築禁止の特約を一時的に排除するものにして、右特約の全面的排除ではないのであるから、本件許可の裁判により形成される借地権の価格は、右特約のない価格と右特約のある価格との中間に位置づけられることになる。本件の資料によると、本件建物は相当老朽化していることが認められ、このことと本件増改築の規模内容を併せ考えるとき、借地人に土地価格(鑑定委員会の意見に従い3.3平方米当り六〇万円)の三%金五四万円を給付せしめ、昭和三九年一月一日以降現在まで賃料が据置れたままであり、賃貸人から従来賃料増額の強い要求もあつたので、増改築許可の裁判をするに当り、増額を考慮するのが相当であり、本裁判確定の月の翌月から賃料を鑑定委員会の委員に従い一ケ月五、一〇〇円(3.3米当り一七〇円)に改める。 (小山俊彦)

目録

(一) 東京都豊島区池袋二丁目八九六番一〇

宅地 383.47平方米(116坪)のうち99.17平方米(30坪)

(二) 右地上所在

家屋番号八九六番四四

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗居宅

床面積 66.11平方米(20坪)

(三) 木造瓦葺二階建店舗居宅

床面積 一階 73.98平方米

二階 27.63平方米

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